2012年01月12日
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三百字小説『菓子の王子さま』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 夜間郵便飛行は過酷な労働だった。しかし、ライバルとの競争も熾烈で、手が抜けなかった。王子様とも呼ばれる厚遇でパイロットを集めた。そして、航空会社は、せめてフライト中に空腹にはさせないよう、菓子を飛行機に積み込んでパイロットにサービスした。彼らは菓子の王子様と呼ばれ、互いの腕前を競った。

 あるとき、どの航空会社にもチョコレートが積み込まれていることをテロリストは知った。テロリストはそれをチョコレートそっくりの軽い毒薬にすり替えた。

 各社のパイロットはそれを食べて飛行中にみんな意識を失い、菓子の王子様達はみんな仮死の王子様になってしまった。そして、彼らは全員星になった。

(遠野秋彦・作 ©2012 TOHNO, Akihiko)

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